東アジア - ヨーロッパ間における鉄道輸送と海上輸送の競争力
東アジアとヨーロッパ間の輸送手段は海上輸送が圧倒的に主流だった。東アジア側からは、神戸港・釜山港・上海港・香港港などからマラッカ海峡・スエズ運河を経由してヨーロッパに荷物を送り届ける輸送ルートである。
一方で、1990年代から中国が戦略的に鉄道輸送ルートを整備しており、一帯一路で更に取り組みは加速している。日本企業も一帯一路ルート(中欧班列)に加えて、中国を経由しないシベリア鉄道ルートを活用している例もある。
この鉄道輸送の競争力の向上と海上輸送の代替可能性は、ランドパワーの復権、具体的には中国の経済安全保障とロシアの経済的地位向上に直結してくる。逆に、鉄道輸送が勃興すると、ユーラシアの鉄道輸送ネットワークから切り離されているインドやアメリカの影響力は低下するだろう。
現在、国際物流は一度に数万もの20ftコンテナを積載可能な超巨大コンテナ船による貨物輸送が全盛を迎えており、鉄道輸送のプレゼンスは低迷しているが、その現状は変わるのだろうか?結論から言えば、劇的に変わるかもしれない。この記事では東アジア - ヨーロッパ間における鉄道輸送と海上輸送の競争力を比較していく。
コスト・リードタイム
輸送コストは発着地により幅があるが、中国内陸部-東ヨーロッパでは船便と同等。中国沿岸部・日本-ドイツでは補助金なしで3-5倍、補助金有りで1.5-2倍に収まっている。リードタイムは中国-ドイツ間が11日で、1.5ヶ月かかる船便はもとより、1週間かかる航空便にも肉薄している。
さらなる競争力強化のためには新たな経路の整備、手続きの迅速化、規制緩和、コンテナを2段重ねにした輸送(ダブルスタックカーの使用)、ブロックトレイン利用推進等が考えられる。
- 補助金抜きで、中国西部からドイツの間で40ftコンテナ1本1万ドル、補助金ありで約4000ドル(2017年実績より)*1
- 日本-欧州輸送(中国経由)のトライアルで、輸送費用は約3倍(鉄道:6,000米ドル程度、海運:2,000米ドル弱/40フィートコンテナ)、輸送日数は7日程度の短縮(25日~28日程度で、海上輸送だと30日~35日)
- 大連-モスクワ間で補助金抜きで40ftコンテナ一本4000-5500ドル、10-12日間(2017)
- 料金7500ドル(約80万円)のうち荷主が支払うのは約3分の1で、残りは中国当局が負担する。コロナ危機前のコンテナ輸送料は海路が1500ドル、空路が2万ドル*3
- 中国内陸部発でハンガリーなど中東欧向けでは、長距離ドレージなどの費用を
織り込むと鉄道は日数が半分で運賃はほぼ同じとなりメリットが高い - 中国-ドイツ間の鉄道輸送にかかる時間は17日から11日に短縮されており、航空輸送は1週間、海上輸送は6週間
- カザフスタン・ロシア・ベラルーシは線路の幅が異なるため貨物の積替えが必要となり、2-3時間で一便終えられるものの、繁忙期は滞留リスクがある
- 中欧班列のコンテナ1本当たりのコストは船便のおよそ3倍。その価格差を狭めるため、地方政府が1本当たり推計で平均2500ドルを補助して支えてきた
実績
ここ10年の急成長は凄まじく、直近実績から推測すると中欧班列の輸送量は約100万TEUに達している。東アジアとヨーロッパの全貿易量に占める数量シェアは10%弱、金額シェアではそれ以上を占めると推測される。
結論
東アジア - ヨーロッパ間における鉄道輸送の競争力は急速に高まっている。コストはさらなる削減余地が大きいものの、リードタイムは大きく減少している。鉄道輸送は中国政府の全面的なバックアップの下で、航空輸送の将来需要を大きく奪いつつ、海上輸送も代替し、10年以内に金額ベースの貿易シェアで過半を占めるようになるのではないかと予想する。
中国とロシアは鉄道輸送の貿易拡大の恩恵を受け、中央アジアはその過程で陸の孤島からシルクロードの中継地へと劇的に変貌する。ユーラシアのランドパワーは20世紀後半の最も低迷した時代から復活しようとしている。シーパワーである日本や韓国もそのおこぼれには預かれるだろう。