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地理・歴史・社会・経済の自由な分析とまとめ

翻訳: ケーララモデル

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インド、ケーララ州はインド南西部、アラビア海に面した細長い州であり、美しい海岸線を活かした観光業が名高い。他の州と較べて面積は狭く、人口密度は1キロ平方メートル当たり1000人と世界有数の過密地域である。

 

ケーララ州は不思議な地域である。インドの中でも特に豊かな地域ではないのにもかかわらず、先進国にも匹敵するほどの教育水準・医療環境と土地分配制度を有している。その成功は、経済発展ではなく、社会的な発展が真の発展ではないかと私達に暗に問いかけている。

 

具体的な実績を挙げてみよう。2003年、ケーララ州の識字率は90%を超え、男女差はほぼ見られなかった。男女間の教育格差が激しいインドでは驚くべきことである。ケーララ州は初めて公平な土地制度を施行したインドの州であり、共産党が地方政権を初めて取った州でもある。人口増加率は0.9%でインドで一番低い。1000人中14人の乳児死亡率はインド平均を大きく下回り、医療サービスが行き届いていることを示している。平均寿命はインドで一番長く、男性70歳、女性75歳である。女性の社会進出は進んでおり、女性の地位も高い。ケーララ州は児童労働の割合がインドで一番少ない州でもある。

 

このような高い医療・教育水準と比べると、見劣りするのが経済的な発展である。観光業を除く多くの産業セクターで発展は停滞し、生産性は頭打ちになっている。経済のグローバル化が伝統的な産業(手織り繊維生地・ココヤシ繊維・カシューナッツ)に打撃を与えている。失業率はインド最悪の25%に達する。ただ、ケーララ州の一人あたりの所得はインド平均よりもやや高い。労働力の量・質と経済の不均衡は労働力の流出を招いている。ケーララ州からは、多数の若者がインドの他地域や海外で働いており、ケーララ州で生まれた4000万人の内800万人が2003年当時、州外に居住し、働いていた。

 

ケーララ州の全ての町と村には電気が通っている。農村人口の91%が飲むのに適した水にアクセスできる。インドの国勢調査によれば貧困線以下の人口は僅か12.5%で、他のインドの全ての州よりも低い。

 

政治面では、ケーララ州では健全な多党政治が行われており、最大政党のインド共産党と次に来るインド国民会議派が二大政党であり、この2党が主軸となる7党連合が政権を担っている(現在は不明)。ケーララ州の共産党はインドの民主的な議会政治の枠組みに適応し、共産党が推進した政策が独特なケーララモデルの基礎になっている。早い段階での地方分権化と土地改革・高い最低賃金と強い労働組合は全て共産党の産物である。

 

ケーララモデルは複数の点でユニークである。平等主義的な社会、発達した教育・医療、地方分権化、人口計画と上手く機能した政権連合、etc... 

これら全ての要素がケーララ州を、封建的・伝統的な社会から活気に満ちた市民社会へと作り変えた。ケーララ州は一貫して市場よりも人々に集中的に投資しており、人的資源が常にその発展の要に位置づけられている。

 

 

出典

Kerala, Model of Development - Dictionary definition of Kerala, Model of Development | Encyclopedia.com: FREE online dictionary