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地理・歴史・社会・経済の自由な分析とまとめ

コロナ危機がもたらす国際社会の分断、国・地域別の国力への影響

昨年武漢で発生した新型コロナウイルス、その危険性と社会・経済への影響は周知の所であるが、数年~数十年単位で新型コロナウイルスが原因で起こりうる国際社会の分断を予想した。

※筆者は専門家では無く、この記事は私自身の個人的見解・分析であり所属団体の見解ではありません。 

 

ウイルスは長期的な国際関係を悪化させる

東日本大震災でも世界各国が支援の手を日本に差し伸べたように、通常、自然災害は国家同士の結束を深めるが、今回は様相が違う。

例えばトランプ大統領や日本国内の一部の右派はコロナウイルスを「武漢ウイルス」呼ばわりし、中国の一部政府高官はアメリカの陰謀論を唱えた。日本と韓国はお互いの入国制限で非難しあい、アジア人種への差別体験を綴ったツイートが頻繁にバズっている。

このような事態に陥ってしまったことには複数の背景がある。1つは各国政府の手に負えない「災害」であるため、他国を助ける余力が無いこと。1つはウイルスというモノの特性によって、国際的な人的交流が滞り、見えないウイルスに対する恐怖が差別を増幅させること。そして、反移民・ナショナリズム・米中対立という分断の下地が十分整っていたからだ。

http://web.kawade.co.jp/bungei/3455/

ホモサピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリ氏は記事でコロナは人類の団結か分断の分岐点だと論じているが、現状は分断に向かっている。

現在でも既にコロナウイルスパンデミックは世界の連帯ではなく、分断・対立を引き起こしているが、1~2年でコロナの流行が収束した後はコロナ前とは異なる分断が表層を表すと予想する。具体的にはコロナで顕になった排外主義と経済ナショナリズムが定着し、中国とアメリカの対立がエスカレートする。

 

以下、コロナウイルスの各国の国力への影響・国際社会での立ち位置への影響について

予想する。

 

アメリ

はっきり言えることは、アメリカはコロナ対策に概ね失敗した、ということだ。感染者数は世界最大で、死者もおそらく世界最大になる。他国が先に流行していて、十分に対策できる時間があったにもかかわらずだ。

この失態を中国になすりつけることは論理的には難しい。そもそもウイルスの発生というのは当該国にコントロールすることは難しい。また、国際的な被害が大きい(人的)災害は発生国が責任を負うとすれば、今頃アメリカの政府予算はリーマンショックでの他国からの賠償請求によって破綻しているだろう。

アメリカの失敗は単純に他国よりも対策が遅かったからだ。初期のトランプ大統領コロナウイルスに対するツイートに表されるように、アメリカは油断していた。にもかかわらず、トランプ政権は中国とWHOに罪をなすりつけようとしている。そして、なりふり構わず世界中からマスクを買い占めている。

対策の失敗と事後の外交的な対応はアメリカの国際社会での権威・プレゼンスの低下をもたらすだろう。

 

対策の失敗は、アメリカは覇権国としての体裁を3つの面から傷付けた。

1つめは感染の抑制に失敗したことで、政府の有能性・実行力に疑問符を持たれた。

2つめは、覇権国として同盟国・その他国家を援助するどころか、物資の供給制限・ワクチン奪取の試み・市場でのマスクの買い占めによって「危機時にアメリカは助けてくれない」というイメージを拡散した。

3つめは、労働者保護が弱く、安全性よりも資本の効率性を重視した企業体制が主だったことが仇となり、アメリカ経済は他国と比べても激しい打撃を受ける。

事後の外交的な対応では、中国に罪をなすりつけても、結局のところ中国はマスク・人工呼吸器の最大の供給地であり、アメリカよりもウイルス対策に貢献している。WHOをCHOと揶揄する声も聞かれるが、WHOの中国重視のスタンスはアメリカの国際機関軽視が招いたものであると同時に、米国内での対策失敗の責任は明らかにWHOにはない。

とはいえ、メディアの力とその拡散力はアメリカは中国と比べると圧倒的に強い。

アメリカと多くの西側諸国では「コロナウイルスの発生とその後の混乱は中国政府の責任」という論調が主流となるだろう。

 

しかし、覚えておきたいのはリーマンショックの際も不況脱出の鍵を握ったのは中国の景気回復、その背景にあった4兆円に及んだ景気刺激策だった、ということだ。

2つの大型ショックにおいて、中国の後塵を拝したことはアメリカのプレゼンスの低下を印象づけることになるだろう。

 

中国

中国は発生国である時点で国際的な評価を毀損した。パンデミックは自然災害的に発生するものだが、後のコントロールは完全に政府に任せられるので人災という側面も帯びてくる。これは東日本大震災後の原発事故と同様、避けようがない国家のイメージダウンである

その後、アメリカに批判のはけ口とされたことや強権的な体制が招く不信感やかねてからの対立から、政治体制が異なる多くの西側諸国からの評価は更に悪化している。

とはいえ、初期の拡散の隠蔽を除けば中国は主要国の中で完璧に近い対応を見せている。事実として、コロナの流行は世界で最も速く収束し、人口における感染者数の割合は最低に近い。

 

この事実から注目すべきは、海外・中国国内それぞれからの中国政府に対する印象の乖離が激しくなる、ということだ。

前述した通り、海外からのイメージダウンは激しい。しかし、中国国民からの評価は流行を上手く収束させたことに加えてメディアのコントロールが相俟って非常に高い(もちろん批判もあるようだ)。

この印象の乖離は中国の自信肥大と西側諸国との関係の悪化を招くだろう。中国国民と中国の政府高官は海外からの批判に驚き「コロナはアメリカ発祥」に挙げられるトンデモ説を唱えたり、「中国は外国を助けている、世界のリーダーだ」など受けが悪い考えを抱き、一部が海外で増幅されることで更に中国の印象が悪化する。

この「増幅」度合いは当該国が中国に抱く既存の印象によって大きく変わるだろう。その結果、アメリカや日本では中国への印象が大幅に悪化し、多くの欧米諸国では悪化、新興国や政治体制が近いロシアなどでは軽微な悪化に留まると予想する。

印象の悪化の影響が軽微な国では医療支援などを通して中国へのイメージが好転する所もあるだろう。しかし、発生国であることや自信肥大によって反感を買う事、中国メディアの海外でのプレゼンスの低さ、ロシアと比べても明確に劣る国際的なプロパガンダ能力を考えるとそれはごく一部に留まりそうだ。

 

印象の悪化とは別に、中国は経済を再始動させつつある。アフターコロナの目処が立っている唯一の国家として、中国の経済刺激策のテンポは他の大国とは異なる独自の道を取っている。中国経済は殆どの国と比べて軽微な減速に留まるだろう。

成功した対応とその後の医療支援・経済回復は中国の相対的な国力を強くする。国民からの支持は現在の習近平核心体制を強化するだろう。中国の国力向上が現実主義的なドイツや余裕が無いイタリアの外交姿勢をアメリカから引き離す事になる見込みは大きい。

また、この結果は民主主義・権威主義を行き来する新興国の政治体制が権威主義になびく要因にもなるかもしれない。

 

日本

日本におけるコロナの流行は現在流動的な様相を見せているが、確実に言える事は「国力と国際的な立ち位置に大きな変化は無い」、ということだ。

日本はスマホの普及以降、エコーチャンバー効果によって既存メディアの影響力・信認が落ち、個人の政治思想・投票行動が大きく変わらない状態が続いている。コロナ流行時の対応は大きく批判されていたが、その後の内閣支持率もほぼ変化していない(参考:https://bunshun.jp/articles/-/36797)。

つまり、今後感染が大きく拡大しても小幅に収まっても、既存の政治体制とアメリカ一辺倒の外交姿勢が続く算段が高い。

また、日本の景気動向はお世辞にも良いとは言えないが、他国以上の悪化幅になることも考えづらい。アメリカと逆に株主の還元圧力が弱い事や、良くも悪くもリスクを取らない保守的な経営がプラスに働くため、金融業界も含めた日本の上場企業は世界的不況時には強い。業績はもちろん悪化するが、ゾンビ企業以外で破綻する企業は他国と比べて低い割合になるだろう。

まとめると、日本の相対的な国力はコロナ以前と同じく、ジリジリと縮小し続け、政治・外交も以前通りに推移するだろう。

長期的な懸念は、日本(とアメリカ)に対する中国の相対的な国力増大がコロナで加速することだ。コロナで更に強まった中国への対決姿勢が経済的・外交的に合理的な選択にならなくなった時、日本は苦境に立たされるかもしれない。

 

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