趣味の海

地理・歴史・社会・経済の自由な分析とまとめ

別分野で才能を発揮する例

2020年・米朝核戦争という国際政治学者が書いたIF戦記がとても面白かった。

 

まず核戦争から3年経った頃の報告書、というスタンスで書かれていて、図表が効果的に使われていて報告書感が醸し出されているのが新鮮で面白い。巻末のトランプ「元」大統領の談話も口調と主張が完全に再現されているのもリアルで良い。

全体を通して、政治学者の知識に裏打ちされた北朝鮮・韓国・アメリカ首脳陣の思考・考えの細部が圧倒的にリアルだった。

このカテゴリの他の本のストーリーを冷静に見てみると現実味が薄いものが多い。大筋でストーリーは不自然では無いが、組織の中で誰がどう受け止めて、どのようなプロセスを経て...という部分が簡略化されているのである。兵器や戦力が緻密に描かれている分そこの雑さが目についてしまう本も多い。

その非現実さは様式として読者には受け入れられているのだが、それゆえに超現実的な本書は新鮮で面白い。

このリアルさは「国際政治学者」が書いたからこそのものだと思うが、このようにとある専門家が別分野で才能を発揮する、というのは国際政治学者がIF戦記を書く、以外のシチュエーションでも色々ある気がしたので、筋が良さそうな組み合わせを以下に列挙してみる。

  1. 研究者がSF小説を書く。優れたSF小説は研究者が監修に入っていたりするが、研究者自身が物語の設定から練ることで、科学に詳しい小説家が思いもつかないテーマ・切り口の小説が書けそう。農業技術や都市工学など、SF小説としては傍流のテーマだとより面白そう。
  2. 俳優が政治家になる。演じる能力、長いセリフを覚えられる俳優の能力は政治に活きる。知名度と優れた容姿もプラスだ。レーガンやアーノルドシュワルツェネッガーが既出。
  3. プロサッカー選手が営業マンになる。営業マンは体力と根性、人当たりが重要だ。サッカー選手の体力と根性は言わずもがな。チームスポーツであるため対人能力も優れている。本人のモチベーションさえあれば、すぐに一流営業マンになれそう。大学アメフト部OBを商社が採用する論理に近いのかも。
  4. 教師がツアーコンダクターをやる。ツアーコンダクターに求められるのは予定を正確に消化するスケジュール能力、良いタイミングでわかりやすく解説する演説力と突発的なアクシデントに対応する力だ。どれも教師にとって重要な能力である。順当に歴史の教員などが向いていそうだ。
  5. 雑誌編集者が人事をやる。雑誌編集者は大勢の関係の薄い執筆者と仕事をする職業なので、人を見る目が養われていそう。文章を適切に評価できる点も、書類選考で強みになる。最低限の事務処理能力を持っている部分も安心だ。